石破総理「日本はギリシャよりも悪い」
2025年5月の参議院予算委員会で、石破総理が、次のように発言した。
我が国の財政状況は間違いなく極めてよろしくないと、ギリシャよりもよろしくないという状況でございます。
第217回国会 参議院予算委員会 令和7年5月19日
「日本の財政はギリシャよりも悪い」と石破総理は明言している。
しかし、この発言は誤りである。以下、日本がギリシャよりも悪いのは、財政ではなく、経済成長率であることを示したい。
日本とギリシャの債務対GDP比
日本とギリシャの債務対GDP比は、1997年の時点では、ほぼ同じ値だった。

そこから日本はギリシャを上回り続けており、2023年の時点で日本は240%、ギリシャは165%となっている※1。
これを見ると、日本の財政はギリシャよりも悪く見える。しかし、債務対GDP比をひも解いてみると、意外な真相が見えてくる。
債務対GDP比
債務対GDP比とは、分数である。

日本の債務対GDP比は、ギリシャよりも高い水準にある。このことから「分子の一般政府総債務がギリシャよりも増加している」と誤解しがちである。
しかし実際には、ギリシャの方が政府債務は増加しているのである※2。
分子と分母の伸び率
以下、1997年=1として、政府債務とGDPの伸び率を比較したものである。

まず一般政府総債務(左側)をみると、ギリシャの方が政府債務を増やしている。次に名目GDP(右側)をみると、日本のGDPは全く増えていない。
このように日本がギリシャよりも悪いのは、財政ではなく、経済成長率なのである※3。
まとめ
最後に、日本とギリシャの債務対GDP比について要約しよう。
- 97年の債務対GDP比は、同じ値だった
- 以降、日本の値はギリシャを上回っている
- ギリシャと比べて、日本の債務対GDP比が高い理由は、債務の増加率が高いからではなく、GDPの成長率が低いからである
日本の債務対GDP比は、主要先進国の中でも高い水準にある。これは政府債務の過大さを表しているのではなく、GDPの過小さを表すものと解釈されるべきなのである。
※1 日本の一般政府総債務の増加率は、ギリシャに限らず、他の主要先進国と比べても高いわけではない。日本が突出しているのは、GDP成長率の低さである。債務対GDP比の国際比較は、以下を参照
※2 分子の一般政府総債務については、その伸び率を国際比較している。詳細は、以下を参照。
※3 政府債務が増加しているからといって「財政が悪化している」というのは短絡的である。そもそも経済の3主体である家計、企業、政府は皆、債務を半永久的に増やし続けている。
例えば、東証一部上場企業のバランス・シートを見れば分かるように、BSの貸方にある負債は、増加の一途を辿っている。この負債が増えている事実だけをもって「その企業は自転車操業だ」と判断するような人はいない。
負債が増えている企業というのは、言うまでもなく、バランスシートの借方にある資産も増加しているからである。東証一部上場企業に投資している株主は、負債が増加している事実だけをもって、その企業の財務状況を判断していない。
同じことは、家計にも当てはまる。例えば、住宅金融支援機構によると、個人向け住宅ローン貸出残高は、1990年度の106.91兆円から、2024年度の227.17兆円へと増加の一途を辿っている。
この家計の住宅債務が増加し続けている事実だけをもって「日本の家計は破綻する」というのはナンセンスである。家計は、住宅ローンという債務を負うと同時に、住宅という資産を手に入れているからである。
このように資本主義経済においては、企業、家計、政府は皆、負債を増やすと同時に、資産も増やしている。これにより家計は豊かになり、企業は次なる投資と事業規模の拡大を行うことができる。そのため、債務・負債が過去最高になることは、歓迎すべきことなのである。


