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【翻訳】アルフレッド・ミッチェル・イネス『貨幣とは何か?』④

MMT翻訳
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現代貨幣理論MMTを支える理論の1つに、アルフレッド・ミッチェル・イネスの信用貨幣論『貨幣とは何か?』という論文(1913年)があります。この…

原文を翻訳しました

次のように6つに分け、大まかにページ数を振っています。

  1. ギリシャ・ローマの貨幣史(P377~P382)
  2. 欧米の貨幣史(P383~P390)
  3. アダム・スミスの誤謬(P391)
  4. 債権と債務の基本(P392~P394)
  5. 債権と債務の歴史(P394~P401)
  6. 結論 (P402~P408)

この記事はパート④を掲載しています。時間が無い方は、イラスト付きの『訳者あとがき』だけ読んでもOKです。

※1 参考・翻訳した文献The Banking Law Journal, May 1913
※2 個人の翻訳である点、何卒ご了承ください。翻訳上の誤りや分かりづらい点は、訳者に責があります。
※3 原文のイタリック体の箇所は下線表記、””箇所は「」表記

本文 (392~P394)

ここで、「債権」という言葉の根源的意義と唯一正しい商業的かつ経済的意義を説明する必要がある。それは、単純に債務の相関物である。

AがBに対して負うものは、AのBに対する債務であり、且つBのAに対する債権である。

AはBの債務者であり、BはAの債権者である。

「債権」と「債務」という言葉は、2人の当事者間の法的関係を表し、2人の逆の立場から見た同じ法的関係を示している。Aが債務としての関係を語るのに対して、Bは債権として語る。

これら2つの言葉を使う機会が頻繁にあった通り、たとえ銀行家や金融の専門家にとっては易しくても、「債権」という言葉から連想される多くの派生的な意味のせいで、普通の読者にとっては混乱を生じやすいこの概念に、読者自身で習熟する必要がある。

そこで以下のページで債権か債務、どちらの言葉が用いられるかは、語られる事柄がいずれの場合も正確に同一であり、その状況が、債権者か債務者の立場から検討される文脈に応じて、一方の言葉が用いられている。

第1級の債権は、財産の金銭的価値が最も高い種類である。物理的な存在がないため、重量を持たず、場所を取らない。しばしば、どんな手続きもなしに簡単に移転できる。

手紙や電報等のコスト以外に何も付随せず、平易な注文で自由自在にあちこち動かすことができる。物質的な不足を補うために即刻利用することが可能で、ほぼ経費を伴わずに破損と盗難から保護される。

財産のあらゆる形態の中で最も扱いやすく、半永久的なものの1つである。債務者と共生し、彼の財産を共有し、彼が死んだ時には財産相続人へ引き継がれる。

財産が有る限り、債務は継続し*4、好ましい環境と商業の健全な状態の下、これまでに劣化で被害を被らなければならない理由は全くないようである。

債権は、貨幣の主要な属性の1つであるとして、経済学の研究でよく言及される購買力であり、私から示してみると、債権且つ債権単独は、貨幣である。債権且つ金や銀でないものは、万人が追求する1つの財産であり、その獲得は全商業の目標と目的である。

「債権」という言葉は、債務の支払いを請求し、訴えを起こす権利であるとして、一般的かつ専門的に定義され、この疑問が無いことが今日における債権の法的側面である。

一方、数が多い少額の買い物を硬貨で支払う習慣としているため、法定通貨制度によって助長されると、債務を弁済する権利が、硬貨やその等価物で支払う権利であるという考え方を受け入れてきた。

さらに、硬貨鋳造の近代的制度によって、硬貨での支払いが、金の一定重量に基づく支払いを意味するという観念に誘導されてきた。


*4 現代では、時効の法律が、一定の出訴期限まで債権の永続性を認める形で通過している。しかし、基本的な考え方に影響を及ぼさなかった。それどころか、それを裏付けている。

P393(17/32ページ目)

商業の原理を理解する前に、この誤った考えを頭からすっかり追い出さなければならない。

「支払う(pay)」という動詞の語根は「なだめる(appease)」「鎮める(pacify)」「満たす(satisfy)」であり、債務者は自身の債権者を満たす立場にいなければならないが、一方で債権の本当に重要な特徴は、債務の「支払い」に与える権利ではなく、その方法によって、債務から己を解放するために保有者に授ける権利―あらゆる社会から承認される権利である。

購入することで債務者になり、売却することで債権者になり、万人が購入者と販売者を同時に兼ね備えるため、私達全員が債務者と債権者なのである。

債務者として、今度は背負った金額に相当する自身の債務承諾書が返還されることで、債権者に債務の解除を強制できる。

例えば、Bから財を100ドルの値段で購入したAは、その金額に相当するBの債務者である。Aが、同じ値段の財をCに売却して、彼(つまり、C)がBから受領した債務承諾書を、Cから決済時に取得することで、AはBに対する債務から脱出できる。

この承諾書をBに贈ることで、AはBに対する債務を強制的に解除することが可能である。Aは債務から己を解放するために入手した債権を活用してきた。それがAの特権である。

これは、商業の原初的な法則である。債権と債務の延々と続く創出と相互に解消される事を通じたその消滅は、商業の機構全体を形成し、それを理解できない者が1人もいないほど単純である。

債権と債務は、金と銀との関係を現に持たず、これまでも決して持たなかった。私が気が付く範囲で、金や銀、それ以外の商品で、債務者に債務の支払いを強制する法律は、現在も過去も全く存在しない。

また私が知る限り、金塊や銀塊で、債権者に債務納付金の受領を強制する法律も、今までに存在せず、それからタバコや他の商品で、債権者に納付金の受領を強制する植民地時代の法制事例は、例外的であり、固有の環境による圧力が原因である。

無論、立法機関は、債務が支払われる個別手段を規定するために、主権を行使する可能性があり、実際に行使するが、商業原則の実例として、通貨や硬貨の鋳造、法定通貨に関する制定法を受諾することに対しては慎重でいなければならない。

債権の価値は、その背後にある金や銀、その他の財産の有無ではなく、専ら債務者の支払い能力に依存し、債務の支払い期日が到来した時、今度は、債務者が己の債務を相殺できる十分な債権を他人に対して保有するか否かに懸かっている。

債務者が己の債務を相殺できる債権を持たず、獲得もできない場合、すると、そうした債務の所有権は、その債務を所有する債権者にとって何の価値もない。

販売によって、繰り返しになるが、唯一販売によるのは、―いずれか財産や人材活用、土地利用の売却であるのはー債務から己を解放する債権を獲得することであり、加えて良識ある銀行家が、債務者としての顧客価値を査定するのは、債務者の売却力次第である。

P394(18/32ページ目)

ある時点に支払いが予定される債務は、その時点で利用可能となる債権に対して打ち消されることで唯一解消可能である。

故に債権者が、己に対して履行される債務の支払いに、自分自身が手渡して後はただ満期を待つだけの債務承諾書を受領するように強いられる可能性はない。

すなわち、ある人は、至急支払わなければならない債務と同額以上、且つ支払いに向けて進呈される即刻利用可能な債権を所有している場合のみ、支払い能力を有することになる。

したがって、差し迫った債務の合計が、足元にある債権の合計を超過すると、債権者に対する債務の実質価値は、債権額と等しくなる金額まで下落する。

これは、商業の最も重要な原理の1つである。もう1つ覚えておくべき重要な点は、販売者が購入済の商品を配達し、購入者から債務の承諾書を受領した時、取引が完了して購入品の払い込みが確定する。

販売者と購入者の間に生じる新たな関係、債権者と債務者は、売買と区別される。



訳者あとがき

前回のPart③では『貨幣とは、信用である』と説明しました。本Part④では、その信用の基本となる債権と債務を確認します。

債権と債務の基本

Part④の前半に、次の文章が登場します。

『AがBに対して負うものは、AのBに対する債務であり、且つBのAに対する債権である。AはBの債務者であり、BはAの債権者である。』

1回読むと、

債権と債務、難しい…

そこで、この文章をイラスト化して見て行きます。

前回Part③のおさらい

前回Part③で、貨幣は「肉を貰ったよの紙である」と説明しました。

Part③の例え話に登場する人物は、この3人でした。


この人数を2人に減らすと…

先の文章に登場するAとBが、A=パン屋、B=肉屋にそれぞれ対応します。


肉屋が「肉を手放す代わりに紙を受け取ってもよい」と判断する理由は…

今度は紙を差し出した時に、パンが貰えるだろうと信用するからです。


肉屋が紙を差し出すまでの間…

肉屋は紙を保管し続ける一方、パン屋はパンを焼いて準備します。


この物理的な状態を、人間関係として可視化すると…

AとBは、信用で結ばれた関係で繋がっています。

Part③ 文章を順番に確認

以上の絵を基に、以下の①と②の文章を順番に確認します。

『AがBに対して負うものは、①AのBに対する債務であり、且つ②BのAに対する債権である。AはBの債務者であり、BはAの債権者である。』

まず『①AのBに対する債務』を言い換えると…

『パン屋の肉屋に対する約束』となり、つまりパン屋は肉屋に約束した人です。


次に『BのAに対する債権』を言い換えると…

『肉屋のパン屋に対する信用』となり、つまり肉屋はパン屋を信用した人です。以上より、最初の文章全体を言い換えると…

『パン屋が肉屋に対して負うものは、パン屋の肉屋に対する約束であり、且つ肉屋のパン屋に対する信用である。パン屋は肉屋に約束した者であり、肉屋はパン屋を信用した者である』

イネスの言葉を簡単にすると、債権と債務は信用と約束であるという事でした。

債権と債務の性質 応用編

続いて本Part④では、次の文章が登場します。

『例えば、Bから財を100ドルの値段で購入したAは、その金額に相当するBの債務者である。Aが、同じ値段の財をCに売却して、彼(つまり、C)がBから受領した債務承諾書を、Cから決済時に取得することで、AはBに対する債務から脱出できる』

1回読んでも、

よく分からない

そこで、3人の取引をイラスト化して、①②③の文章を順々に確認します。

文章中のA・B・Cは、A=パン屋、B=肉屋、C=ビール醸造者に対応します。

2人(A・B)だけの取引

『①肉屋から肉を100ドルの値段で購入したパン屋』は、

肉の対価である100$の紙幣を、肉屋へ渡します。


この100$紙幣を『肉100$分を貰ったよ』の紙に置き換えると…

パン屋は肉屋の債務者であることが、明確に見て取ることができます。


今度は、パン屋が肉屋から同じ紙を差し出された時…

パン100$分と引き換える約束(債務を負う)をします。


しかし、パン屋からすると、肉屋から紙を差し出されない限り…

自力では、肉屋の債務者(上の状態)から脱出できません。

2人だけの取引

自力では、債務から脱出できない

次に、3人の取引で見ると話が変わってきます。

3人(A・B・C)の取引

肉屋が、ビール醸造者からビール100$分を購入した場合…

ビール醸造者は「ビール100$分を貰ったよ」の紙を受け取ります。


次に「パン屋が同じ値段100$分のパンをビール醸造者に売却」すると…

パン屋は、同じ紙を受け取ります。


最後に、パン屋が肉屋に同じ紙を差し出すと…

パン屋は、肉屋に対する肉100$分の債務から脱出」できます。

3人の取引

自力で、債務から脱出できる

そして、取引の人数が4人、5人…と増えて社会全体に広がると、

『債権の本当に重要な特徴は、債務の「支払い」に与える権利ではなく、その方法によって、債務から己を解放するために保有者に授ける権利―あらゆる社会から承認される権利である』

予め確保した債権を、購入(債務)に充当できることが一般化します。

3人の取引が、2人の取引と相違する部分

ビール醸造者が肉屋から紙を貰う所までは…

2人の取引でも成立する話でした


その後、ビール醸造者はパン屋に同じ紙を渡しました。

これは、取引する人数が2人だと成立しない行動でした。

第三者に手交できる

ビール醸造者は、まずビールを売却することで肉屋の債権者になった後、パンを購入することでパン屋の債務者になりました。


同じことが、パン屋の行動にも当てはまります。

パン屋は、まず肉を購入することで肉屋の債務者になった後、パンを売却することでビール醸造者の債権者になりました。

『購入することで債務者になり、売却することで債権者になり、万人が購入者と販売者を同時に兼ね備えるため、私達全員が債務者と債権者なのである

2人と違って3人の取引では、債務者と債権者が同一人物でなくても構いません。人数が社会の規模まで増えると、皆が、誰かの債務者であると同時に誰かの債権者でもあることになります。

債権と債務 まとめ

以上、ポイントをまとめると…

債権と債務 ポイント
  1. 債権と債務は、信用と約束である
  2. 3人以上いれば、自力で債務から脱出できる
  3. 第3者に手交できる
  4. 皆が、債権者と債務者を兼ねる

Part③では、貨幣は「肉を貰ったよの紙である」と説明されたのに対して、Part④では、その紙が全員に受け取られる経緯が具体的に説明されました。

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