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【翻訳】イングランド銀行 季刊誌『現代の経済における貨幣:概論』後半

イングランド銀行
この記事は約22分で読めます。

イングランド銀行は、季刊誌現代の経済における貨幣:概論の中で貨幣について解説しています。この記事の…

原文を翻訳しました

記事を以下の通り、2つに分け、大まかにページ数を振りました。

  1. 要旨・イラスト付序文・本文
  2. 本文・結論・表A・囲み記事

本ページは、訳文前を掲載しています。

※1 この翻訳記事は”Money in the modern economy : an introduction and Money creation in modern economy.(Quarterly Bulletin 2014Q1)in the publication Quarterly Bulletin 2014 Q1, authored by Michael McLeay, Amar Radia and Ryland Thomas and copyright of the Bank of England 2014”の英文記事を、イングランド銀行の同意を得て翻訳したものです。
※2 原文のURLはhttps://www.bankofengland.co.uk/quarterly-bulletin/2014/q1/money-in-the-modern-economy-an-introduction
※3 イングランド銀行は、この翻訳文の校正と翻訳の精度や完全性に関する保証を一切行ったりしません。この翻訳のあらゆる複製は、イングランド銀行と訳者の承諾を必要とします。

※4 個人の翻訳である点、何卒ご了承ください。翻訳上の誤りや分かりづらい点は、訳者に責があります。
※5 原文のイタリック体の箇所は下線表記
※6 本文中に登場する3つのグラフが何度も登場するのは、スクロールの手間を省くためです。

※7 囲み記事(Box)は、原文の順番と異なり、訳文の最終ページに掲載しています。

本文 

誰が誰に対して借りがあるのか?借用証書の俯瞰

バランス・シートを描くことは、相異なる主体の借用証書を相互に俯瞰する上で有益な方法である。既述の通り、各々の借用証書は、誰かに対する金融負債であり、別の誰かに対する金融資産と釣り合っている。

ひいては、あらゆる個人に対して、バランス・シートが資産ー他人から由来する借用証書と自分達の非金融資産ーを片側に合計する。そして、負債(または債務)ー他人に対する借用証書ーを他方側に合計する(1)

同一経済圏にいる当該グループのそれとは別のグループに対する借用証書を表す(2)、統合版バランス・シートを求めるため、各グループにいる個人個人を1つにまとめることができる。

図2は、経済機構における、3つの各グループに対する資産と負債の定型バランス・シートである。貨幣が類型別に色分けされている。


【訳者補足】グラフの注釈(a)~(d)はP7(4/10)に記載。再掲

通貨は青色、銀行預金は赤色、中央銀行の準備金は緑色である。故に広義の通貨が、消費者によって保有される赤色と青色の資産を足し合わせた合計であるのに対して、ベース・マネーが、青色と緑色の資産を足し合わせた合計である。

(バランス・シートが正確な縮尺ではない点に注意ー現実には、広義の通貨がベース・マネーより大きい)

各種の貨幣は、あるグループの資産であると共に、それとは異なるグループの負債であるため、最低2つ以上のグループのバランス・シートに計上される。


【訳者補足】グラフの注釈(a)(b)はP6(3/10)に記載。再掲

貨幣の機能を果たさない資産と負債が、他にも沢山ある(図1の薄紫色以外)。


【訳者補足】グラフの注釈(a)~(d)はP7(4/10)に記載。再掲

この内の一部が図2の白色で示される。消費者は、消費者の負債であると同時に銀行の資産でもある、例えば、抵当権等の貸付金を保有している。

これ以降、本節では、3つの貨幣を類型別に細かく掘り下げ、価値があると評される理由を説明し、次に創造される仕組みを簡潔に記す(3)

9ページの囲み記事は、貨幣と幾つかの点で似た手段の発明を促してきた決済技術と代替通貨に関する近年の発展について、その一部を簡潔に概説している。

(ⅰ)不換通貨 ー 銀行券 と 硬貨
   それは何か?

通貨は、主に銀行券(2,013年12月時点で総額の約94%)で構成され、その大部分が、イングランド銀行のそれ以外の経済主体に対する借用証書である(4)

商業銀行も預金の払い戻しに対応するため、若干のお金を保有しているが、通貨の大部分は消費者によって保有されている。

その叙述で明らかなように、銀行券は、要求があり次第、特定の額(例えば、5ポンド)を紙幣の所有者に「支払う約束」である。


【訳者補足】グラフの注釈(a)~(d)はP7(4/10)に記載。再掲

これにより、銀行券はイングランド銀行の負債とその保有者の資産となり、図2のバランス・シートの青色で示される。

1,694年にイングランド銀行が設立された時、その最初の銀行券は金に兌換された。金と兌換される「紙幣」の発行手続きが開始したのは、金細工職人(goldsmith)の銀行家が顧客のために金貨を保管し始めた時期よりも早い。

金細工職人は硬貨と引き換えに受領書を手交し、その受領書は間もなく貨幣の1種として流通し始めた。イングランド銀行は、似たような方法で銀行券と引き換えに金を渡していた―要求があり次第、紙幣を金に兌換するために待機していた。

それが2、3の短い期間を別として、以降250年間の大部分にわたって通貨が機能した仕組みー「金本位制」である(5)

しかし、1,931年にイングランド銀行は、紙幣に代わる金の提供を永久に廃止したため、後述するように、イギリスは大不況の間、自国の経済運営をより上手に対処できた。

1,931年以来、イングランド銀行の通貨は、不換貨幣である。不換貨幣、または「紙幣」は(金や他の商品等の)どの資産にも変換されない貨幣である。


本文の注釈
(1)慣例として、資産の合計と負債の合計は一致しなければならない。資産が負債より大きい場合、その差は、資産を保有する側の自己資本として定義される。例えば、負債を持たない消費者は、その資産価値と等しい資本を保有する。銀行関連の資本に関する手引きは、ファラグ、ハーランド、ニクソン(Farag,Harland and Nixon 2013)を参照。
(2)グループ内の諸個人間の債務は帳消しになり、他のグループとの借用証書だけが残る。
(3)リャン-コリンズ(Ryan-Collins et al 2011)は、貨幣の出所に関する詳細な導入的説明を行っている。
(4)流通通貨の残りの約6%が硬貨であり、英国王立造幣局(Royal Mint)によって製造されている。イギリス経済圏で流通する銀行券の一部が、とあるスコットランドと北アイルランドの商業銀行によって発券されている。
(5)イングランド銀行は、特に戦時中、金の兌換を停止した期間がある。英国財務省(HM Treasury)もまた、第1次世界大戦が発生した時、紙幣を発行していたーこれらの「法定紙幣(Treasury Notes)」は、硬貨と兌換可能で1,928年まで流通し続けた。

P9(6/10ページ目)

不換通貨は、どの経済主体からも交換の手段として受領されるため、イングランド銀行が貨幣の所有者に対する債務を背負うとは言うものの、そうした債務は、従前より多くの不換通貨を以て返済される他に無い。

イングランド銀行は、もう供用されていない銀行券を他の等価物と半永久的に引き換えることで、当該債務の引き受けを保証している。

例えば、2,014年4月30日の回収後も、ジョン・ホーブロン(訳者補足:イングランド銀行の初代総裁)を表示している50ポンド紙幣は、マシュー・ボールトンとジェームズ・ワットを表示している新品の50ポンド紙幣と交換される。

なぜ、不換通貨を用いるのか?

不換通貨は、経済状況にどうにかして対処しなければならない事態に陥った時、貨幣を金と結びつける以上の持ち味を発揮する。

不換通貨を以てすれば、国民の貨幣需要が変化しても、国民が入手できる通貨の量を変更することで調和を保つことが可能である。

通貨量が金のような商品に紐づけられる時、金を採掘できる量には限界があるため、潜在的な貨幣量に上限を設けることになる。

さらに、その制約が経済の円滑な機能にとって適切でない事はよくある(1)。例えば、1,931年に金本位制を廃止したことで、イギリスは経済機構下にある貨幣量を再び管理できるようになった。

イギリスは通貨を未だ金と結びつける他国と比較して、自国通貨の価値を削減することが可能となり(そして、これには流通通貨の増量を伴った)経済史家の中には、イギリスが1,930年代の世界各国と同じ深刻な不況を回避するのに貢献したと主張する者もいる(2)


(1)そうした商品の量が急速に増加している期間に、過剰な貨幣を創出していた可能性もある。16世紀のスペインは、南北アメリカ大陸から大量の金と銀を輸入した後、長引く高インフレに悩まされた。
(2)テミン(Temin 1989)とアイケングリーン(Eichengreen 1992) は、大不況の間、金本位制下にあった国々の景気動向について、詳細な分析を行っている。

P11(7/10ページ目)

全般的に言うと、経済にとって不換貨幣を用いる利点はあるものの、個々人が交換に用いることを進んで選択しない限り、以上の事は実現しない。

紙幣が何某かの実物財に直接変換されないならば、交換であまねく受容される理由は何か?

1つの答えは、信認される交換の手段が、社会的慣例や歴史的慣習の産物として、時間をかけて自然発生的に表面化するというものである。

社会に表出するそうした慣習は、数多く存在している。例えば、イギリスでクルマに乗る人は、道路の左側を通行し、充分な数の運転者が、大抵の人は同じ行動を取ると確信するようになった時、この慣習が歩み始める(1)。しかし、過去、多くの諸外国でそうだったように、慣習が右側通行になる可能性も等しくあったのである。

しかしながら、貨幣の場合、国家がその進化において総じて務めを果たしてきた(2)。何1つ不自由がない保有通貨を実現するため、ある時点で何者かが、そうした紙幣を実物財やサービスと交換する手筈を整え、国家がその保証を後押しできると知る必要がある。

これを実現させるためには、税金の納付として受け取ることによって、通貨に対する需要をいつでも保証する方法がある。または、政府がその通貨を「法廷貨幣」(3)と見做すことで、そうした需要に幾分働きかけることもできる。

たとえ、国家がこうした仕方で通貨の使用に根拠を与えても、それだけでは、人々が将来的に(または、法的義務を負う形で)利用するとは限らない。紙幣は有用だと信頼する必要があり、つまり、偽造の困難さが重要になる(4)

価値の保存として保有し、加えて交換の手段として活用できる場合、紙幣の価値が長期間、広い範囲にわたって安定した状態を保つと信用する必要もある。

これは一般的に、国家が安定した低インフレを保証しなければならないことを意味している。

1,931年に金本位制を廃止して以来、貨幣価値を安定した状態に保つ様々な方法が試行され、成功の度合いはまちまちだった。

例えば、1,980年代の政策は、経済機構における広義の通貨が拡大する割合を、長期間維持し続ける狙いがあった(5)。1,992年以来、イングランド銀行はインフレ・ターゲットを消費者物価に合わせてきた。

インフレ・ターゲットが意味するのは、財とサービスの潜在的な購入量に対して、イングランド銀行が貨幣価値を比較的安定した状態に維持する目標を掲げて注力する取り組みである。

それによって人々は、銀行紙幣の価値が、金の一定量に相当すると信じるのではなく、今年から翌年にかけて安定的な実質生産額に相当すると見込むことができるようになる。

どのようにして、不換通貨は創造されるのか?

イングランド銀行は、国民の紙幣需要に応える十分な紙幣を確実に作り出す。

まず第一に、イングランド銀行は、追加紙幣の印刷を業務用プリンターで手配する。

次に、古くなった銀行紙幣ー使用にもう適さないか、引き出される諸々の一部ーを商業銀行と交換する。すると、この古い紙幣は、イングランド銀行によって破棄される。

紙幣に対する需要も、通例として徐々に増加してきた。この必要な量以上の需要を満たすために、イングランド銀行もそれに呼応して、古い銀行紙幣を取り換えるのに必要な量以上の紙幣を発行する(6)

新たに発行された追加の紙幣が、イングランド銀行の手元から商業銀行によって購入される。

商業銀行は、イングランド銀行の電子式借用証書ー中央銀行の準備金ーの一部と交換することで、イングランド銀行の新規通貨である、紙製の借用証書を支払っている。

【訳者補足】グラフの注釈(a)~(d)はP7(4/10)に記載。再掲

図2で示されるバランス・シートの規模は変わらないが、緑色部分と青色部分の境界が変化する(7)

(ⅱ)銀行預金 それは何か?

通貨は、経済機構にいる人々と企業によって保有される貨幣のごく僅かな金額を占めるに過ぎない。残りは、図表1の通り、銀行預金である

【訳者補足】グラフの注釈(a)~(e)はP11(7/10)記載。以降、文脈に応じて再掲する。

安全性の観点から、消費者は、一般的に全資産を生身の紙幣で保管したいと思わない。さらに、通貨には利子が付かないため、銀行預金のような利子が付く他の資産に比べると保有する魅力が薄い。


【訳者補足】グラフの注釈(a)~(d)はP7(4/10)に記載。再掲

以上の理由により、消費者は、図2の赤色の銀行預金―代替的な交換の手段を主として保有する方へ流れる。

銀行預金は、例えば、消費者が開設する当座預金や定期預金、投資家が購入する銀行債券など、様々な形態を取ることができる。現代の経済において、これらは電子的に記録される傾向にある。

簡略化のため、本稿は貨幣の最も明快な機能として、家計と企業の銀行預金に焦点を当てる。


本文の注釈
(1)ヤング(Young、1998) は、人々が、クルマではなく、馬で引いた乗り物を運行していた時、この慣習は主にヨーロッパで形成されたと説明している。後に法制化され、人々が慣習に従うことを担保させている。
(2)グッドハート(Goodhart、1998) は、史実によれば、交換の手段としての貨幣が発展していく過程において、国家が死活的に重要だと主張している。彼は、その見解を、より自然な進化を提唱するメンガー(1,892)の立場と対比させている。
(3)例えば、イングランド銀行の紙幣は、イギリスとウェールズの法定通貨としての唯一の紙幣である。しかし、その法定通貨の地位は、負債の返済に関して狭い範囲の意義しか持たない。通常の取引で、通貨が交換の手段として利用されるか否かは、交換を行う2人の当事者間の同意に懸かっているため、実地への適用は総じて皆無である。
(4)流通証券の特徴と教育の教材に関する情報は、www.bankofengland.co.uk/banknotes/Pages/educational.aspx.を参照。
(5)イギリスの通貨政策体制のより詳しい歴史は、カイリンクロス(Cairncross、1995)やウッド(Wood、2005) を参照。
(6)銀行券流通スキーム(Note Circulation Scheme)に関する完全版は、アレンとデント(Allen and Dent、2010)を参照。


【訳者補足】グラフの注釈(a)~(d)はP7(4/10)に記載。再掲

(7)図2の通り、イングランド銀行の貨幣は、中央銀行のバランス・シートの他方側にある非貨幣資産と一致し、それは平時において、スターリング通貨市場の証券や政府債券である。これらの資産には利子が付くのに対して、貨幣には付かない。その資産からの収入(紙幣を発行するイングランド銀行の経費控除後)は英国財務省に送金され、「通貨発行益(シニョリッジ、seigniorage)」として知られる。

図表1 注釈
(a)データは全て、2,013年12月時点。
(b)銀行と住宅金融組合によって保有されるイングランド銀行の準備金で、季節調整前。データは、週間データの月平均。
(c)ベース・マネーの通貨は、イングランド銀行の外部で流通する紙幣と硬貨であり、銀行と住宅金融組合の現金登録機にあるものを含む。データは、週間データの月平均。
(d)広義の通貨は、民間部門のノン・バンクで保有される紙幣と硬貨のみで、月末時点で計測。
(e)M4は、その他金融仲介業者を除く。

P12(8/10ページ目)

なぜ、銀行預金を利用するのか?

消費者が自らの紙幣を銀行に預ける時、単にイングランド銀行の借用証書を商業銀行の借用証書と交換しているに過ぎない。

商業銀行は追加の紙幣を入手するが、その代わりに預かったお金を消費者の口座に入金する。消費者は、払い戻しをいつでも受けられると確信しているため、通貨を銀行預金と交換するだけである。

よって銀行は、預金者の借用証書を払い戻すため、起こり得る要求に応える十分な通貨量の確保が問題ないことを保証する必要がある。

大部分の家計預金者に対して、顧客が疑心暗鬼にならないことを確実にしておくため、この預金は一定額まで保証される(1)。これにより、銀行預金は通貨に難なく換金されると信認され、交換の手段としての地位を確かなものにする。

現代の経済では、特に断りがない限り、銀行預金がお金の姿であることが多い。現在、給与を流通通貨ではなく、銀行預金で受け取る人が大半である。銀行預金を通貨と取り換えるよりも寧ろ、多くの消費者が価値の保存として、さらに以前にも増して交換の手段として活用している。

例えば、消費者がデビット・カード(訳者補足:決済すると代金が即時に口座から引き落とされる、預金口座と紐付いたカード)で店舗に支払う時、銀行部門は、その消費者に対する負債額を減らしー消費者の預金が削減される。

ーその一方で、店舗に対する負債額を増やしー店舗の預金が加算される。消費者は、通貨への変換を伴わず、預金を交換の手段として直接利用している。

どのようにして、銀行預金は創造されるのか?

イングランド銀行によって創造される通貨と違い、銀行預金は、その大部分が商業銀行によって独自に創造される。誰かが紙幣を口座に払い込む度に預金残高は増加するが、誰かが引き出す度に銀行預金の額は減少する。

【訳者補足】グラフ注釈(a)~(e)はP11(7/10)記載。再掲

さらに図表1の通り、通貨銀行預金に比べると、ごく僅かである。銀行預金の創造にとって遥かに重要なのは、銀行による新規貸出の行為である。

銀行が顧客の1人に貸出を行う時、従前より多くの預金残高を顧客口座にただ記帳するだけである。その瞬間、新規の貨幣が創造される。

銀行預金は銀行の単なる借用証書であるため、銀行は真新しい貨幣を創造できる。借用証書を創造する銀行の能力は、誰に対しても相違がない。銀行が貸出を行う時、借入人も銀行に対する己の借用証書を作り出している。

唯一の違いは、前述の理由により、銀行の借用証書(預金)が交換の手段ーつまり、貨幣ーとして広く受容される点である。しかしながら、貨幣を創造する商業銀行の能力は無限ではない。

創造できる金額の大きさは、様々な要因、特にイングランド銀行の通貨政策や金融の安定化手段、規制によって影響を受ける。この制約と貨幣創造の過程は、この記事の姉妹編でより広く詳細に検討されている。

(iii)中央銀行の準備金

商業銀行は、頻繁な預金の引出と流出に対応するため、通貨を幾何か保持する必要がある。しかし、相互に遂行している大量の取引で生身の紙幣を使うのは、極めて面倒だろう。

【訳者補足】グラフの注釈(a)~(d)はP7(4/10)に記載。再掲

そこで銀行は、中央銀行の準備金として知られ、図2の緑色で示した、類型の異なる借用証書をイングランド銀行から取得することが認められている。イングランド銀行の準備金は、中央銀行の各個別銀行に対する負債額の電子記録である。

家計や企業にとっての預金と同様に、銀行にとっての準備金は、利便性が高い交換の手段である。実際、当座預金が家計や企業に対して役立っている通りに、中央銀行の準備金口座は、商業銀行に対して類似の役割を演じると見做すことができる。

ある銀行が、他所の銀行に対する支払いを実行したい場合ー銀行は、顧客が取引する際、日々大量に遂行している通りにー預金残高を適宜調節しているイングランド銀行へ通知する。

さらにイングランド銀行は、万が一、商業銀行が必要とする場合に備え、準備金の多寡を問わず、通貨との交換も保証している。

例えば、預金を銀行券に取り換えたい家計の数が多い場合、商業銀行は家計に払い戻すための通貨を準備金と交換できる。以上、これまで考察してきた通り、通貨発行者としてのイングランド銀行は、その需要を満たすのに十全な通貨量をいつでも確保する能力がある。


本文の注釈
(1)金融サービス補償機構は、プルーデンス規制機構が承認した機関の預金者1名につき、85,000ポンドまでを上限として小口預金に対する保護を提供している。更なる情報は、www.fscs.org.uk.を参照。

結論 P13(9/10ページ目)

本稿は、貨幣が意味するものと現代の経済における様々な貨幣を紹介してきた。今日の貨幣は、債務の1種であるが、経済機構の中で交換の手段として受領される債務の特別な形態である。

そうした貨幣の大部分が、銀行預金の形態であり、商業銀行によって独自に創造される。この記事の姉妹編「現代の経済における貨幣創造」は、商業銀行による貨幣創造の過程をさらに詳しく描いている。

表A 貨幣とその名称 類型別用語集

名称記述別名
銀行預金商業銀行の個人や企業に対する借用証書内部貨幣(銀行のバランス・シートにある外部貨幣と一致しない)
ベース・
マネー
中央銀行の準備金+通貨マネタリー・ベース
中央銀行貨幣
(イギリスでは)外部貨幣
ハイ・パワード・マネー
M0
広義の
通貨
(銀行以外の)
民間部門が保有する通貨+銀行預金(それに加え、商業銀行のそれ以外の民間部門に対する短期負債)
M4ex
(イングランド銀行によって使用される広義の通貨の主要指標ー経済の支出に関わる貨幣指標を提供するため、いわゆる金融の仲介業者である、特定金融機関の預金を除く)
M4(IOFCsの預金を含む)
M3(住宅金融組合を含まない昔の定義)
中央銀行
の準備金
商業銀行の中央銀行
に対する借用証書
商品貨幣主要な機能を果たすという理由で、先天的な内在価値を有する商品が、貨幣として用いられるー例えば、金貨など
通貨主に中央銀行の紙幣保有者に対する借用証書の類型(紙の銀行券や硬貨の形態)紙幣と硬貨
不換貨幣兌換できない貨幣
ー単に不換貨幣に対する権利である

(a)「現代の経済における貨幣創造」の囲み記事は、貨幣の様々な尺度が、経済を理解する上で有益である旨を説明している。

P14(10/10ページ目)

Money in the modern economy: an introduction(内容は、引用文献リスト)を参照。

P9(6/10ページ目) 囲み記事

決済技術と代替通貨における最近の発展

近年、決済技術と代替通貨におけるイノベーションの波が起っている。この囲み記事は、こうした進歩の一部を簡潔に紹介し、記事の本文で考察されている貨幣の基本的な考え方との関連性に焦点を当てる。

全般的に見ると、貨幣の機能を部分的にー様々な度合いでー果たすとは言え、現時点では、通貨や中央銀行の準備金、銀行預金のような交換の手段として受容されるまでには至っていない。

一連のイノベーションによって、家計と企業が銀行預金を、取引を行うために利用できる完全に電子的な形態の貨幣(電子マネーと呼ばれたりする)へと変換できるようになっている。

こうした技術は、決済手続きの改善を図っている。

例えば、その事例として、ペイ・パルとグーグル・ウォレットが挙げられる。銀行券より銀行預金を使った取引の方が便利であるのと同じく、取引によっては、銀行券や銀行預金より電子マネーでお金を使った方が便利な場合もある。

こうした形態の貨幣は、銀行の預金者にとって類似した特徴を幾つか有している。例えば、電子マネーの預金は、提供企業が信頼されている限り、価値の保存を体現する。

電子マネーが、それを受け取る(オンライン販売等の)事業者や個人を相手に交換の手段として利用される可能性はある。

しかしながら、他の交換手段と肩を並べて広く受容されるまでには至らず、例えば、店頭で一般に受領されたりはしない。この技術を活用した取引も、既存の計算単位(イギリスの場合、ポンド)建てが一般的である。

それ以外の一連のイノベーションは、新たな計算単位の導入に貢献している。

これらのスキームは、定められた環境の下で経済活動の促進を図り、イギリスのブリストル・ポンドやブリクストン・ポンド、ルイス・ポンド(1)(Bristol, Brixton or Lewes Pounds)等の地域通貨である。

地域通貨については、前回の公報記事(ナクヴィとサウスゲート 2013)で詳しく考察されている。こうした形態のお金は、通貨と固定レートで交換できる。

例えば、1ポンドは、1ブリストル・ポンドと交換できる。そのため、地域通貨は、独自の計算単位ーポンドではなく、ブリクストン・ポンドー建ての財やサービスと交換可能である。

結果的に、交換手段としての用途が計画的に制限される。例えば、ルイス・ポンドは、ルイス地方に所在する、加盟小売事業者にしか利用できない。

更なるイノベーションの部類は、ビットコインとライトコイン、リップル(Bitcoin、Litecoin、Ripple)等のデジタル通貨である。こうした通貨と地域通貨の主な違いは、デジタル通貨とそれ以外の通貨の交換レートが固定されていない点である。

現時点におけるデジタル通貨は、交換の手段として広く利用されていない。というより、その人気の大部分は、投資対象の代役を務める力に由来する。従って、貨幣というより、金のような商品と概念上の類似性を有している。

デジタル通貨も、予め決められたレートにも関わらず、無から創造されるため、この囲み記事で考察してきた一連の技術とは異なっている。それに引き換え、地域通貨はポンドと交換される場合のみ、流通した状態になる。

電子マネーの預金や地域通貨の保有額が、専ら需要に左右されるのに対して、デジタル通貨の供給は、どちらかと言えば限定されることが多い。


(1)地域通貨や補完通貨は、目新しいイノベーションではないが、一方で近年、イギリスの数多くの地域で初めて採用されるようになった。より詳しくは、ナクヴィとサウスゲート(Naqvi and Southgate 2013) を参照。

参考文献

【ゴールド・スミス】
「ゴールドスミス(金匠)は、当初ロンドンで貴金属の細工や地金取引を営んでいたが、次いで貨幣の両替にも着手し、さらに17世紀に入ると、貴金属の保管者となってその預託を受けるとともに、受入れた貨幣の貸出を組織的に行うようになった。

そしてこのばあい、ゴールドスミスは、貴金属の受入れにさいして預かり証を手交したが、この預り証が商人達のあいだで取引の決済手段として授受されるようになると、この流通に依拠してゴールドスミスは、預金の受入れとは無関係に貨幣支払約束書(goldsmith’s note 金匠手形)を発行し、これもって貸付を行うようになった。

…なおこのゴールドスミス・ノートは、一般に、記名人または持参人にたいする要求払の約束書で、額面金額は一定せずにその時々に必要な金額がそのまま記され、またその流通には裏書を必要としていた。その後、イングランド銀行の設立を画期として…ゴールドスミスの銀行業は衰退し…ゴールドスミス・ノートは、そうした銀行券の先駆的なものとなったのである。」
『貨幣論概要』P123 原 薫 / 遠藤 茂雄

【イングランド銀行券】
「イングランド銀行は1,694年に設立されたが、その設立当初に発行され流通した紙券(ノート)として、Sealed Bill(捺印手形)とRunning Cash Note(当座現金手形)の2種があった。

…但しこのシールド・ビルは、利子生み証券として保持されるほかは一般に余り流通しなかったといわれ…1,716年以降ーイングランド銀行の政府貸付が国庫証券の引受の方法で行われることによってーその発行は停止されるに至った。

ランニング・キャッシュ・ノートは、さきにみたゴールドスミス・ノートと同様に、当初、ランニング・キャッシュ(要求払預金)にたいする受領書として発行されたが、その流通にもとづいて、間もなく預金の受入とは無関係に、イングランド銀行による貸出の手段として発行されるようになり、同銀行の信用創造の主要な手段となって行った。

このランニング・キャッシュ・ノートは、ゴールドスミス・ノートの形式を受継いだもので、記名人または持参人にたいする要求払の約束書(約束手形)であり、額面は一定せずにその時々に必要な金額が記入され、通常は無利子だった。

イングランド銀行券の原型となったのは、このランニング・キャッシュ・ノートであって、1,725年には定額券となり(但し20ポンド券以上)、18世紀半ばから10ポンド以上の定額券も発行されるようになった。さらに1,820年代には完全な持参人払式となり、持参人に対する一覧払の銀行券として、完成された形式のものとなった。」

『貨幣論概要』P124 原 薫 / 遠藤 茂雄


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