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【翻訳】イングランド銀行 季刊誌『現代の経済における貨幣創造』後半

イングランド銀行
この記事は約27分で読めます。

イングランド銀行は、季刊誌現代の経済における貨幣創造』の中で信用創造について解説しています。この記事の…

原文を翻訳しました

記事を以下の通り、2つに分け、大まかにページ数を振りました。

  1. 序文・概要・本文
  2. 本文・結論・囲み記事

本ページは、訳文後を掲載しています。

※1 この翻訳記事は”Money in the modern economy : an introduction and Money creation in modern economy.(Quarterly Bulletin 2014Q1)in the publication Quarterly Bulletin 2014 Q1, authored by Michael McLeay, Amar Radia and Ryland Thomas and copyright of the Bank of England 2014”の英文記事を、イングランド銀行の同意を得て翻訳したものです。
※2 原文のURLはhttps://www.bankofengland.co.uk/quarterly-bulletin/2014/q1/money-creation-in-the-modern-economy
※3 イングランド銀行は、この翻訳文を見直したり、翻訳の精度や完全性に関する保証を一切行ったりしません。この翻訳のあらゆる複製は、イングランド銀行と訳者の承諾を必要とします。

※4 個人の翻訳である点、何卒ご了承ください。翻訳上の誤りや分かりづらい点は、訳者に責があります。
※5 原文のイタリック体の箇所は下線表記
※6 本文中に登場する3つのグラフは、スクロールの手間を省くため、同じグラフが何度も登場します。

※7 囲み記事(Box)は、原文の順番と異なり、訳文の最終ページに掲載しています。

本文

融資に関連するリスクへの対応

銀行は、新規融資に関連するリスクを管理する必要もある。これに対応するには、新規融資に匹敵する比較的信頼できる預金、つまり、多額のお金が引き出される可能性は少ないか、皆無である預金を確実に取り集める方法がある。これにより、銀行が貸し出す金額の潜在的上限を引き上げる。

例えば、銀行は、保有している預金が丸々、当座預金などの即座に利用できる形態にある場合、数々の預金が短期間で引き出されるリスクを冒すことになる。

銀行は、長い年月にわたって資金を貸し出す傾向にあるため、預金を漏れなく払い戻すことが覚束ない可能性ー甚大な流動性リスクに直面するだろう。

流動性リスクを軽減するため、銀行は少しでも預金を、一定の期間や期日に区切って確定させた状態を担保しようとする(2)

消費者は、期間が長い預金を保有する不自由に対して補償を請求する可能性がある一方、銀行にとっては経費が掛かるため、銀行が望む融資実行高を抑制する。

そして、前述の通り、銀行が固定負債を発行することで流動性リスクから身を守る場合、企業は、預金を使ってそれを支払う時に貨幣を直接破壊する可能性がある。

各個別銀行の貸出は、信用リスクを考慮することによっても限定される。これは、融資の返済能力がないと後々判明する借り手に貸し出す銀行のリスクである。

銀行は、融資の予期せぬ損失を吸収する十分な資本を持つことで、信用リスクから幾分身を守ることができる。しかし、貸出は、損失を被る銀行にとって一定のリスクを常に抱えるため、この損失分の費用が融資を値付けする時に考慮される。

銀行が融資を実行する時、貸倒損失見込み額の標準的な水準に相当する補償分が、請求金利の中に通常組み込まれる。

銀行が将来被る損失は大きいと判断した時、例えば、有利子負債の割合が高い抵当権設定者に融資を実行する時、上述部分に相当する金利は高くなるだろう。

銀行が貸出を拡大させるにつれ、融資1案件当たりの標準的な損失見込み額は増大しやすくなるため、融資の採算が低下する。これは、銀行が収益性を確保しつつ融資を実行できる金額とそれによって創造できる金額を一層狭めることになる。

市場原理によって、各個別銀行が流動性リスクと信用リスクに対して、充分に自己防衛を図るようになるとは限らない。

このため、堅実な規制には、銀行資本と資金繰りに関する要件も含め、銀行が新規融資を実行する時に過剰なリスクを取らないようにさせる狙いがある。

つまり、上記の要件は、商業銀行が貸出によって創造できる上限額の歯止めになることができる。堅実な規制の枠組みは、資本と流動性に関する詳細事項と併せて、ファラグとハーランド、ニクソン(Farag,Harland and Nixon 2013)において記述されている。

これまで本節はー融資と預金の双方がー高い競争力の金利を提供することで、追加融資を行う各個別銀行の事例を検討してきた。

しかし、全行が貸出の拡大を同時に意思決定した場合、貨幣の伸び率が全く同じ仕方で限定的になるとは限らない。個々の銀行は、他行に対する預金を失うかもしれないが、他行が融資を実行した成果としての預金を自力で獲得しやすくなる。


(1)銀行が新規融資に値付けする方法は、ボタン、ペッツィーニ、ロシッター(Button、Pezzini、Rossiter、2,010)を参照。
(2)銀行は、流動資産(準備金と通貨を含む)を保有することによっても流動性リスクから身を守り、その流動資産は、流出を埋め合わせるために直接充当されるか、もしそうでないなら、それが可能な資産へ迅速且つ安価に変換可能である。銀行は、政府債券等の流動資産をノン・バンクから購入する場合も、更なる預金を創造できる。

P20(7/14ページ目)

数多の銀行が、一斉に貸出を進んで著しく拡大させるのには、多くの理由がある。例えば、経済環境の全般的な改善によって、従前の利子率でも、融資の収益性が改善している可能性が考えられる。

その他として、銀行が家計と企業の融資関連リスクは低下したと認識すれば、融資の拡大に踏み切るかもしれない。この種の出来事は、金融危機に到るまでの間、銀行融資が極めて大きく拡大した理由の1つとして度々主張されている(1)

しかし、その低リスク環境という認識が根拠のないものであれば、一層脆弱な金融システムという結末が危惧される(2)

イギリスにおける危機対応の1つとして挙げられるのが、マクロ健全性を司る当局、金融政策委員会(Financial Policy Committee)の創設であり(3)金融システムの強靭性を全面的に脅かすリスクの特定と監視を行い、さらに減殺と除去のための措置を講じている。

(ⅱ)家計と企業の反応から生じる制約

トービンによって主張されるように、貨幣創造を抑えようと行動する銀行に降りかかる各種の制約に加え、銀行部門による貨幣創造に反応する家計と企業の行動もまた重要である。

他の資産(不動産や株式等)と比べて保有を望んでいる以上(または以下)に貨幣が創造されるため、ノン・バンクの民間部門の行動は、銀行部門による信用創造が現金残高にもたらす極めて大きな影響を及ぼす。

融資を受ける家計と企業は、より一層支出をしたいと欲しているため、その通り行動するに従って、そのお金を他人に手早く渡す習性がある。次に、それらの家計と企業が反応する仕方は、経済圏にある現金残高を方向付け、支出とインフレーションに影響する可能性を孕んでいるだろう。

新しく創造された預金に起こり得る事態が、大きく分けて2つある。

まず第1に、トービンによって示唆される通り、ローンが支出された後にお金を受け取る企業や家計が、自分達の完済していない銀行ローンを繰り上げ返済するため、そのお金を使いたいと望む場合、貨幣は即刻破壊される。これは「逆流理論(reflux theory)」と呼ばれることがある(4)

例えば、住宅を初めて購入する人が、高齢者から住宅を購入するために住宅ローンを組み、次にその高齢者が、既存の住宅ローンを完済して家族と一緒に引っ越す場合である。

前述の通り、融資の実行が貨幣を創造するように、銀行ローンの返済は貨幣を破壊する。そのため、この場合、経済機構における消費者のバランス・シートは、融資を実行する以前の状態に戻るだろう。

第2に、銀行による追加の貨幣創造は、経済の支出増につながる可能性が想定される。

新しく創造された貨幣が破壊されるためには、今抱えているローンの返済を望んでいる家計と企業の手元へ移動する必要がある。しかし、保有している資産と負債の中身が、経済機構にいる個々人によって相当変動している傾向にあるため、以上が必ずしも実現するとは限らない(5)

その代わりに、貨幣が金融資産を積極的に保有している家計や企業の手元へ最初に移動する可能性はある。高齢者が住宅ローンを完済している場合か、決済として貨幣を受け取った企業が、将来起こり得る出費に備えるための充分な流動資産を既に保有している場合である。

彼らは、望んでいる以上の貨幣を保有している状態になり、次に財とサービスの支出を拡充することで、保有している「余分の」貨幣を減らそうとする(企業の場合、代わりに利回りが高い資産を購入するかもしれない)。

これらの新しく創造された貨幣にまつわる2つのシナリオー迅速に破壊されるか、支出を通じて移動するかーによって、経済活動に対する影響が大きく異なってくる。

後者の場合、貨幣が家計と企業の間で回流し続け、次に、各人が支出を増やす可能性がある。上記の過程ー「ホット・ポテト(hot potato)」効果と呼ばれたりするーは、それ以外の条件が同じ場合、経済のインフレ圧力が高まる原因になる(6)

それに対して、貨幣が前者のシナリオとして即刻破壊される場合、それ以上の経済的効果が起こるとは限らない。

これまで本稿は、銀行と家計並びに企業の行動が、経済圏の貨幣量に影響を及ぼし、ひいてはインフレ圧力になる仕組みを考察してきた。しかし、経済機構における金融情勢を最終的に決定する要因は、中央銀行の通貨政策である。

(Ⅲ)通貨政策ー貨幣創造に掛かる最終制約

イングランド銀行の主要目的の1つは、消費者物価インフレーションを、政府に設定された2%目標の軌道にのせることで通貨の安定を保証することである。

22~23ページの囲み記事で論じた通り(訳者補足:原文とは異なり、最終頁に移して掲載)種々の貨幣指標は、名目支出と似たような歩調で伸びて来た期間があり、その名目支出は経済のインフレ圧力を中期的に方向付ける要因である。

したがって、インフレ目標を達成する通貨政策を適切に掲げるのであれば、その目標を叶える信用創造と貨幣創造が安定的な割合になるよう最終的に保証すべきである。

本節は、通貨政策と様々な類型の貨幣との関係を説明していく。


(1)例えば、ハルデーン(Haldane、2,009)を参照。
(2)タッカー(Tucker、2,009)は、金融環境の下、そのような「リスクの錯覚」が起こり得ると論じている。
(3)タッカーとホール、パッターニ(Tucker、Hall、Pattani、2,013)は、昨今の金融危機を受け、イギリスでマクロ健全的な政策を立案するための新たな権力を叙述している。
(4)カルドアとトレヴィチック(Kaldor、Trevithick、1,981)を参照。
(5)カマース等(Kamath、2,011)を参照。
(6)この仕組みは、レイドラー(Laidler 、1984), コングドン(Congdon、1992, 2005),ハウエルズ(Howells、1995),レイドラーとロブソン(Laidler and Robson、1995),ブリッジズとロシッター、トーマス(Bridges, Rossiter and Thomas、2011),ブリッジズとトーマス(BridgesとThomas、2,012) の論文で詳しく説明されている。

P21(8/14ページ目)

平時においては、金融政策委員会(the Monetary Policy Committee:MPC)が、他国のそれに相当する意思決定機関の多くと同じように、短期金利、すなわち商業銀行によって保有される中銀準備金の金利を定めることで通貨政策を措置している。

イギリスでは、中央銀行貨幣の独占的供給者であるイングランド銀行の地位のおかげで、その通りに遂行する能力がある。

また、中央銀行貨幣ー広義の通貨創造者である、銀行に決済するための最終手段ーが需要されるため、準備金の相場が経済圏の利子率に与える効果は重要な意義を宿している。

商業銀行が中央銀行の懐に所在している貨幣から獲得できる金利の利率は、スターリング通貨市場ーイングランド銀行と商業銀行が相互に融通して他の金融機関に貸し出す市場ーにおいて、複数の商業銀行が似通った条件で自発的に行う貸出の金利に影響を与えている。

クリューズ、サーモン、ウィークン(Clews、Salmon、Weeken、2,010)によって詳細に考察されている通り、イングランド銀行が通貨政策を措置する目的で、公開市場操作を行使する手段の委細は経時的に変化しており、今日の中央銀行が運営している手順は各国で若干相違している(1)

銀行間で融通する金利が変化すると、銀行が借り手に請求する貸出金利と貯蓄をする人に提示する貯蓄金利も込みで、種々様々な市場と満期日の金利に波及していく(2)。こうした経路を辿って債権価格に波及することで、通貨政策は、広義の通貨創造に働き掛ける。

以上の通貨政策と貨幣の関係に関わる内容は、沢山の初歩的な教科書にある記述と齟齬があり、そこでは、中央銀行が準備高を能動的に変化させることで「貨幣乗数」を通じて、広義の通貨量を決めている(3)

その見方では、中央銀行が準備高を決めることで通貨政策を行っている。そして、ベース・マネーの広義の通貨に対する割合が不変と前提されているため、次に、銀行が貸出と預金を拡大させるにつれ、準備金が乗数化して銀行預金に非常に大きな変化がもたらされる。

その話の筋道は、どちらも現代の経済における貨幣と通貨政策の関係の正確な記述ではない。

中央銀行は、望ましい短期金利をもたらすために、準備高を通例的に決めるのではない(4)。むしろ、物価ー利子率の設定ーに焦点を合わせている(5)

イングランド銀行は、採択された政策金利で準備金を供給して報いることによって利子率を制御している。

準備金と通貨(共に一体となって、ベース・マネーを構成する)の供給はいずれも、支払いを決済するための用途と顧客からの通貨需要を満たす目的の双方を叶える準備金に対する銀行の需要ー通常、中央銀行が便宜を図る需要ーで決まる。

故に、このベース・マネーに対する需要は、銀行が融資を実行して広義の通貨を創造する原因というよりも、むしろ結果である可能性の方が高い。

これは、信用を拡大する銀行の意思決定が、任意の時点で採算を取れる融資の好機に恵まれるか否かに依るためである。前述の通り、融資の採算は、数多くの要因に左右されるだろう。この内の1つが、銀行が直面する資金コストであり、それは準備金に付く金利、すなわち政策金利と密接に関係している。

それに引き換え、制度上の準備高は、貸出の行為を通じた広義の通貨創造に制約を設けない(6)

この貨幣乗数の過程は、しばしば中央銀行の準備預金制度に関心を引くことで理由付けされ、それによって、銀行は保有している預金の一定割合に匹敵する最低準備高を維持することが義務付けられている。しかし、今日、大部分の先進国における準備預金制度は、通貨政策体制の大した側面ではない(7)

通貨政策の方針を緩めると、貸出金利を下げて融資枠を拡大することによって、広義の通貨残高を拡張させやすい。そして、広義の通貨残高が増大すると、経済の支出水準が上昇することを伴い、準備金と通貨に対する銀行と顧客の需要増を惹き起こす(8)。そのため、実際の所、貨幣乗数理論は通常記述されるのと逆の仕方で作用している。

QEー通貨政策を駆使して、広義の通貨を直接創造する

前節では、通貨政策が商業銀行による貨幣創造の最終制約と見做し得る所以について論じた。しかし、商業銀行が代わりに創造できた貨幣は、インフレ目標を達成している経済に見合う量に遠く及ばない。

平時において、MPC(金融政策委員会)は貸出とそれによる貨幣創造を促すため、政策金利を下げることで対処できる。しかし、金融危機に反応して、MPCは政策金利を0.5%ーいわゆる、効果を発揮する水準の下限値ーまで引き下げた。

ひとたび、短期金利が効果を発揮する水準の下限値に行き着くと、中央銀行が準備金の付利金利を下げることによって、経済に更なる刺激を与えるのは不可能である(9)。経済にもたらす通貨刺激策として考えられる手段の1つに、資産購入プログラム(QE)がある。

政策金利の引き下げと同様、資産購入は、MPCが経済活動を刺激してインフレ目標を達成するために金融政策の方針を緩和できる1つの手段である。しかし、2つの政策における貨幣の役割は相違している。


(1)スターリング通貨市場におけるイングランド銀行のオペレーション体制は、イングランド銀行の「赤本Red Book」に示されており、
www.bankofengland.co.uk/markets/Documents/money/publications/redbook.pdf. で入手できる。スターリング通貨市場に関する最近の発展は、ジャクソンとシム(JacksonとSim、2,013)によって考察されている。

(2)イングランド銀行(1,999)は、通貨政策の波及経路について詳細に考察している。
(3)ベネスとクムホフ(Benes and Kumhof、2012)は、乗数神話について詳しく論じている。
(4)ディシャタット(Disyatat、2,008)が考察する通り。
(5)ビンセイル(Bindseil、2,004)は、通貨政策の執行が短期金利を通して波及する仕組みの詳細な説明を行っている。
(6)カーペンターとデミラルプ(CarpenterとDemiralp、2012)は、アメリカ合衆国における準備高の変化が貸出の多寡と無関係であることを示している。
(7)現在、イングランド銀行には例えば、正式な準備金要件のようなものがない(イングランド銀行の負債の一部として、無利子のCRD(cash ratio deposits)の一定割合を、銀行が保有するよう確かに要求している。しかし、このCRDの機能は稼働していない。その目的は、イングランド銀行のために収益を提供する以外にない)。バーナンキ(Barnanke、2,007)は、アメリカ合衆国の準備金要件が以前ほどの制約を掛けていない背景について論じている。
(8)カイドランドとプレスコット(KydlandとPrescott、1,990)は、広義の通貨供給が循環を惹き起こすのに対して、ベース・マネーは循環より僅かに遅延する傾向を見出している。
(9)仮に、中央銀行が0を大きく下回る水準まで金利を引き下げた場合、銀行は準備金を通貨と交換できるようになり、通貨に付く利子率(0か、通貨の保管経費を考慮すると微かに0を下回る)の方が高くなるだろう。換言すると、中銀準備金に対する需要が消滅するため、中央銀行が準備金の相場を操作することで経済に影響を与えるのは最早不可能になる。

P24(11/14ページ目)

QEの眼目は、通貨政策の焦点を貨幣量へ転換することにある。中央銀行は、広義の通貨創造とそれに相当する準備高の積み増しによって確保した資金で、大量の資産を購入する。

資産を売却した相手方は、政府債券に代わって新しく創造された預金を保有した状態になるだろう。彼等は、他の資産と相対的に比較して、望んでいる以上に貨幣を保有している可能性が高い。

故に彼らは、企業によって発行される債券と株式のような利回りが高い資産を購入するために新規預金を使うことで、資産配分の組み換えを望むだろうー前述の「ホット・ポテト」効果を惹起する。

これは資産価値を上昇させ、市場で資金調達する企業にとってのコストを押し下げるだろう。今度は、経済の支出増を招くはずである(1)

よって、QEが機能する経路は、中央銀行の資産購入に関するよくある2つの誤解ーまず、QEが「自由に使えるお金」を銀行に付与しー次に、貨幣乗数理論で説明されている通りに、QEの主な狙いが、より多くの準備金を銀行業界に供与することで銀行の貸出を拡大させるーと食い違っている。

本節は、貨幣とQEの関係を解説し、この誤解を解消する。

QEと貨幣量の関係

QEは、イングランド銀行が資産購入を行う手段のため、ベース・マネーと広義の通貨、双方の多寡に直接的な効果を及ぼす。資産や政府債券を、主としてノン・バンクの金融法人、例えば、年金基金や保険会社等から買い取る政策意図がある。

例えば、10億ポンドの政府債券を年金基金から購入する場合を考えてみよう。イングランド銀行が購入を行うためには、10億ポンドの紙幣を印刷して年金基金と直接交換する方法がある。しかし、そのような大量の紙幣を使って取引するのは、実用的でない。故に、この種の取引は、電子形態の貨幣を使って行われる。

年金基金は、イングランド銀行の準備金口座を保有していないため、銀行口座の保有先である商業銀行が仲介人として利用される。

年金基金の銀行は、政府債券と引き換えに、預金10億ポンドを年金基金の口座に入金する。これが図3の第1区画で示される。


イングランド銀行は、準備金を年金基金の銀行に入金するー借用証書(IOU)を商業銀行に譲渡する(第2列)ーことで、その購入資金を調達する。


商業銀行のバランス・シートが拡大し、新たな預金負債は、追加された準備金の形態にある資産と合致している(第3列)。

QEが機能する仕組みに関する2つの誤解
追加の準備金が、銀行にとって「自由に使えるお金」ではない理由

中央銀行の資産購入が、商業銀行のバランス・シートを巻き込みーそして、影響を与えるーのに対して、当の銀行は、主に中央銀行と年金基金の取引を円滑に進める仲介人としての役割を果たす。

図3の追加された準備金は、この取引の副産物でしかない。それは、利子を稼ぐ商業銀行によって保有される資産であるため、この準備金が銀行にとって「自由に使えるお金」だと主張される時がある。

銀行が新しく創造された準備金の利子を確かに得る一方、QEは、年金基金の預金の形態で、銀行に対する負債も併せて創造しており、通常、銀行は自分達でその利払いを履行しなければならない。

換言すると、QEは銀行の手元に、中央銀行の新規借用証書だけでなく、それと同規模の消費者(この場合、年金基金)に対する新規借用証書を留めた状態にし、どちらの利子率も政策金利に依存している。


本文 注釈
(1)QEが経済に影響を与える経路は、ベンフォード等(Benford et al、2009)、ジョイスとトン、ウッズ(JoyceとTong、Woods、2,011)、バウドラーとラディア(BowdlerとRadia、2,012)で詳細に取り上げられている。貨幣の役割は、ブリッジズとロシッター、トーマス(BridgesとRossiter、Thomas、2,011)、ブリッジズとトーマス(BridgesとThomas、2,012)、バット等(Butt et al、2,012)において、より具体的に記述されている。

3 注釈
(a)バランス・シートは各々を図示するため、高度に定型化されている。図示された各種の貨幣量は、部門別バランス・シートで実際に保有されている量と合致しない。取引に関連する資産と負債のみを図示している。
(b)実際の所、政府債務は、イングランド銀行からの貸付金を使って資産買取基金によって購入されるため、イングランド銀行の公式連結バランス・シートにその通り直接現れる訳ではない。

P25(12/14ページ目)

追加の準備金が乗数化して、新しい貸出と広義の通貨になる訳ではない理由

前段で検討した通り、QEが波及する仕組みはーベース・マネーよりも寧ろー新しく創造される広義の通貨から影響を受ける。

その波及の開始点は、政府債務に代わって、資産保有者のバランス・シートにある銀行預金の創造である(図3の第1列目)。


重要なことに、銀行部門に創造される準備金(図3の第3列目)は、中心的な役割を果たさない。これは、既に説明した通り、銀行は準備金を直接貸し出すことができないためである。

準備金は、中央銀行の商業銀行に対する借用証書である。それら複数の銀行は、準備金を相互決済のために利用できるが、準備金口座を保有していない消費者に「貸し出す」ことはできない。銀行が追加融資を実行する時、追加預金と釣り合っている ー 準備高は変化しない。

さらに、貨幣乗数理論によって予言されるように、追加の準備金が機械的に乗数化して、新規貸出と新規預金になる訳ではない。QEは、直接貸出や貸付金の増額を要することなく、広義の通貨を拡張させる。

貨幣乗数理論の第1番目の行程がー金融政策の方針によって、準備高が機械的に決定されるーQEの間、確かに効力を持つのに対して、新しく創造される準備金は、それ単独では、貸出によって新しい広義の通貨を創造する銀行の動機を何かしらの意義に資する形で促さない。

QEは、例えば、資金を調達する経費の削減や、活発な経済活動による与信枠の拡大を通じて(1)新規貸出を行う銀行の動機に間接的に働き掛けることができる。

だが同時に、企業が債権や資本の発行額を積み増し、銀行融資を返済するためにその資金を充てる場合、QEは、企業が銀行債権を返済する要因になる可能性がある。

よって、以上をまとめると、QEは経済機構の中で銀行が貸し出す額を増やしたり、減らしたりすることができる。しかしながら、上記の経路がその波及の鍵を握る部分だと所望されることはない。代わりに、QEは銀行部門を掻いくぐり、民間部門の支出を直接拡充させようとすることで軌道に乗るのである(2)

結論

本稿は、現代の経済における貨幣が創造される仕組みを考察してきた。流通している貨幣の大半が、イングランド銀行の印刷機によってではなく、商業銀行によって独自に創造される。

銀行は、経済機構にいる誰かに貸出を行ったり、消費者から資産を購入したりする都度、貨幣を創造する。そして、一部の教科書で見受けられる記述と対照を成すように、イングランド銀行は、ベース・マネーと広義の通貨双方の数量を直接的に制御しない。

にも関わらず、イングランド銀行は尚、経済圏の貨幣量に影響を与えることができる。平時にはー商業銀行によって保有されるイングランド銀行の準備金に付く金利を通じてー通貨政策を定めることで執行している。

より最近では、政策金利が効果を発揮する下限値の範囲に限定されているものの、イングランド銀行の資産購入プログラムが、広義の通貨の流通量を引き上げようと模索している。次に、これは貨幣を含む、経済機構における様々な資産の物価と数量に働き掛ける。


(1)銀行がより安定的な資金を調達できるようにすることで、銀行貸出の拡大を可能にするQEと似た仕組みが、マイルズ(2,012)において考察されている。
(2)以上の経路は、QEの銀行貸出に対する広範な影響と併せて、バット等(Butt et al、2,012)の囲み記事で詳しく考察されている。

P26,27(13,14/14ページ目)

Money creation in the modern economy(内容は、引用文献リスト)を参照。

囲み記事『類型別の貨幣集計量に関するデータ内容』

イングランド銀行の主要目的の1つは、政府の2%目標を満たすインフレ軌道に乗せることで通貨の安定を保証することである。

ミルトン・フリードマン(1,963)は、よく知られるように「インフレは、いついかなる場所でも、貨幣現象である」と主張した。

そのため、貨幣供給量(money supply)の変化は、経済圏の支出とインフレ圧力に関する貴重な情報を含んでいる可能性がある。

貨幣は、財とサービスを購入するのに欠かせないため、経済機構における現在の名目支出水準に関する裏付けデータを含んでいる可能性が高い。

さらに、名目支出の将来的な動向に関する増分データをもたらす可能性もあるため、今後のインフレ圧力に関する有益な指標になり得る。

最終的に、分けても通貨政策が「量的緩和(QE)」を通じて運営される時、通貨が波及する仕組みの性質を解明する上で、貨幣の動向が役に立つ可能性がある。

実際、鍵となる難題は、どの貨幣指標がそれぞれの目的に応じて観察するのに適切な指標か、を見極める点である。現在、イングランド銀行は、数々の貨幣集計量を組み立て、表1の要約にある通り、作成を許可している一連のデータを公表している。


図A 様々な貨幣集計量と名目支出
引用:イングランド銀行、Capie and Webber (1985), Mitchell (1988), ONS, Sefton and Weale (1995), Solomou and Weale (1991) and Bank calculations.全系列は可能な限り、季節調整と不連続調整を行っている。長期時系列データは、X12を使って季節調整。※訳者:各データ系列に施した注釈は省略

図Aは、経済圏における名目支出の成長率と比較した、貨幣集計量の伸び率に関する長期時系列の一部を示している(1)

過去150年に及ぶイギリスの通貨体制における様々な変遷を考慮すると、貨幣の裏づけデータと増分データの両方を、たった1つの貨幣指標で完璧に捉えるというのは有りそうにない。

貨幣と支出の基本的関係を考慮するのであれば、イギリスの金融部門は、やはり考慮に入れる必要がある様々な構造的変遷を経験している。


図A 様々な貨幣集計量と名目支出(再掲
引用:イングランド銀行、Capie and Webber (1985), Mitchell (1988), ONS, Sefton and Weale (1995), Solomou and Weale (1991) and Bank calculations.全系列は可能な限り、季節調整と不連続調整を行っている。長期時系列データは、X12を使って季節調整。※訳者:各データ系列に施した注釈は省略

例えば、金融部門が他の経済部門より成長している(1,980年初頭と2,000年代等の)時期に、広義の通貨は、名目支出より持続的に早い速度で成長する傾向にある。

紙幣と硬貨、要求払い預金(違約金なしで即座に引き出し可能な預金)といった、狭義の貨幣に関する指標は、経済の財取引とサービス取引の大多数で使用される貨幣の可能性が高いため、原則的には、支出に関する、優れた裏付け指標である。

ノン・バンクの民間部門によって保有される紙幣と硬貨、要求払い預金の合計は、流動的資金「MZM」として知られる(2)

広義の貨幣に関する指標は、将来的な支出の増分指標として一層適しており、波及が起こる仕組みの性質を更に解明する可能性がある。例えば、M2は、貯蓄預金などの家計の定期預金を含めている(3)

それからM4は、更なる広義の指標であり、非金融法人とノン・バンクの金融法人によって保有される要求払い預金と定期預金を漏れなく包含している。記事の本文は、QEが最初に金融法人の預金を拡大させることで作用する仕組みを記述している。

これらの企業は資産配分を組み替えるため、資産価格が上昇しやすく、時間差を伴って、家計と企業の支出増に繋がっている。そのため、広義の通貨を観察することは、QEの有効性を評価する重要な要素である(4)

数多くの計量経済学の研究は、広義の通貨における部門別の動向もまた、経済の支出に関する貴重な増分データをもたらす可能性があると主張している(5)

例えば、非金融法人の預金は、経済における事業投資の主要指標だと思われる。貨幣各種の取引額に関する何某かの基準を用いることで、様々な狭義の通貨と広義の通貨を試しに重みづけすることも可能であるーディビジア(Divisia)指数(6)として知られる。

実務的には、既に与えられている類型の貨幣に付く利子は、重み付け指標として活用されるのが通例である。その理由は、取引サービスをより多く提供することで貨幣が埋め合わせをする場合、個人と企業は金融証券より低い利子率の貨幣を保有する可能性がひとえに高いためである。

適切な貨幣指標の特定は、金融部門の間断ない発達によって煩雑化している。これにより、貨幣となる証券の範囲と、従来型の銀行組織から融資を受けて預金を行う金融機関の範囲が共に拡大している。

例えば、買戻し条件付販売契約(買戻し特約として知られる)ー法人が、後々売り戻すことを前提に銀行から証券を購入する契約ーは、銀行に保持される権利が担保付きの預金として解釈され得ることを理由に、現在、M4の中に組み込んでいる。

それに加えて、経済学者の中には、様々な種類の借入と貸出の担保を差し出す証券が、より広範な貨幣指標に包含され得ると主張する者もいる(7)

さらに、預金を保有するノン・バンク機関の多くは、もっぱら銀行同士で仲介業務を行っている。「その他金融仲介企業(IOFCs)」として知られる、こうした機関の預金は、経済の支出に直接関わらない銀行業界内の活動を反映している可能性が高い(8)。以上の理由から、イングランド銀行にとって、広義の通貨の主要指標はM4exであり、IOFCの預金を除外している。


(1)上記系列は、現在のイングランド銀行のデータを、貨幣集計量の長期時系列データと一緒に結合させている。集計データはhttps://www.bankofengland.co.uk/publications/Documents/quarterlybulletin/2014/longrunmoneydata.xlsで利用可。
(2)無利子のM1として知られる狭義の指標も構築可能である。この指標は、今日における要求払い預金の大半に一定の利子が付くため、有用な集計でなくなっている。例えば、利子率が0近辺まで下落した金融危機の間、無利子の預金を維持する経費は、利子が付く預金に比べて急落したため、無利子のM1の伸び率が著しく上昇した。M1を重要視すると、経済の名目支出の増加率に関する誤ったメッセージを与える事になるだろう。
(3)M2は、ノン・バンク民間部門の紙幣と硬貨、さらに募集金利が付く「リテール」預金の保有を包含している。それらは、もっぱら家計によって保有される預金だが、企業預金にも一部当てはまる。
(4)ブリッジズ、ロシッター、トーマス(Bridges, Rossiter and Thomas 2011)とバット(Butt et al 2012)を参照。
(5)例えば、アストレイとハルデーン(Astley and Haldane、1,995)、トーマス(Thomas、1,997a, b)、ブリグデンとミズン(Brigden and Mizen、2,004)を参照。
(6)例えば、ハンコック(Hancock,2,005)を参照。
(7)シン(Singh、2,013)を参照。
(8)バーゲスとジャンセン(Burgess and Janssen、2007)及びhttps://www.bankofengland.co.uk/statistics/details/further-details-about-m4-excluding-intermediate-other-financial-corporations-data を参照。

表1 英国で入手できるデータから構築可能な定番の貨幣集計量

boe2.xlsx

名称定義記述(b)利用可
紙幣と硬貨イングランド銀行の外部で流通している紙幣と硬貨最も狭い範囲の貨幣指標
現金主義の取引指標として活用される。
1,870年~現在
M0紙幣と硬貨、
さらに中央銀行の準備金
長期時系列で貨幣乗数の計算に用いられる基礎的な貨幣指標。イングランド銀行のバランスシートの大きさを測る概算指標として利用されることが多い。
イングランド銀行による公表は現在行っていないが、再構築可(d)
1,870年~現在
M1
無利子
ノン・バンクの民間金融機関によって保有される紙幣と硬貨、さらに無利子の要求払い預金経済圏における財取引とサービス取引の指標で、大抵の要求払い預金に利子が付いて以降、有用性が低下している。
イングランド銀行による公表は現在行っていないが、公表済データから再構築可。
1,921年~現在
MZMノン・バンクの民間金融機関によって保有される紙幣と硬貨、さらに要求払い預金経済圏における財取引とサービス取引の指標。
イングランド銀行による公表は現在行っていないが、公表済データから再構築可。
イングランド銀行は、ECBによるM1の定義に基づいた指標も作成している。
1,977年~現在
M2
又は
小口M4
ノン・バンクの民間金融機関によって保有される紙幣と硬貨、さらに小口預金(小口の定期預金を含む)小口預金を含むMZMより広範な貨幣指標。追加対象は、家計の定期預金と企業の小口定期預金の一部。
現在、イングランド銀行による公表を行っている。イングランド銀行は、ECBによるM2の定義に基づいた指標も作成している。
1,982年~現在
M3ノン・バンクの民間金融機関(住宅金融組合を除く)によって保有される紙幣と硬貨、さらに要求払い預金と定期預金1,987年まで、イングランド銀行によって構築された広義の通貨供給に関する主要指標。
イングランド銀行は、ECBによるM3の定義に基づいた指標も作成している。
1,870年~1,990年
M4ノン・バンクの民間金融機関によって保有される紙幣と硬貨、預金、定期預金証書、満期5年未満の買戻し特約と証券2,007年まで、イングランド銀行によって構築された広義の通貨供給に関する主要指標。1,963年~現在
M4exIOFCsの預金を除くM42,007年以来、イングランド銀行によって作成されている広義の通貨供給に関する主要指標。1,997年~現在
デヴィジア
Divisia
様々な類型の貨幣を重みづけして足し合わせた合計提供中の取引サービスに応じて、広義の通貨を構成している資産の配分に重み付けする狙いがある。1,977年~現在



過大な地位が、イギリスでは手元の現金、アメリカでは準備金と呼ばれるもの、換言すると、銀行の所有下にある法定通貨の金額と通俗的に関連付けられ、物事の自然な成り行きとして、銀行の貸出能力と支払い能力がこの準備金の多寡に依存すると一般的に考えられている。

実際、上述の内容を過剰にはっきりと且つ断固として言い切るのは不可能であり、こうした法定通貨の準備金は、科学的な見地から見て、他のあらゆる銀行資産と同様に意義を有していない。

他のどんなものとも同じく唯の信用であり、それが預金額の25、10、1、0.25%のどれでも、少なくとも銀行の支払い能力に影響を及ぼさないだろう、ひいては、アメリカ合衆国が法律によって、決して保持すべきでなかったこれらの準備金に重大な地位を付与したことは遺憾である

ミッチェル・イネス『貨幣とは何か?⑥』P28

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